ふと気がつくと、 薄暗い中一人で立っていた。 目の前には、大きな門と、 私によく似た小さな門番。 後ろは…どうしても振り返ることができなかった。 いったいどうしてこんなところにいるんだろう。 見知らぬ場所なのに、 なぜか不安や焦りはなかった。 私は落ち着いてここがどこなのか考えてみた。 もう少しで何か思い出せそうな、 そんな気がするのだけれど… 考え混んでいたら、 門番が口を開いてこう言った。 「ようこそおいでくださいました。 あなたはこれから一つ、決めなくてはなりません。 元いた場所へ戻るか、 それとも、門をくぐって先へ進むか。」 門番の話によると、どうやら望んでここにきた人間は、 門の前で一度振り返る権利があるみたいだ。 私は望んでここへ来たのだったっけ? ああそうか。 少し思い出してきた。 私は私の周りにまとわりつく、 泥のような状況が嫌になって、 その場から逃げてきたのだった。 走って走って、 気がつくとこの門の前まで来てしまっていたのだ。 進むか、戻るか。 門をくぐろうとしたその時 後ろから懐かしい声に呼ばれた気がした。 私は、足を止め振り返った。 帰ろう。 もう一度やり直そう。 顔を上げると、門番がこっちを見てニヤリと笑っていた。