[01:28.32] 1 [01:33.06]愛するものが死んだ時には、 [01:36.79]自殺しなきゃあなりません。 [01:42.30]愛するものが死んだ時には、 [01:45.80]それより他に、方法がない。 [01:50.93]けれどもそれでも、業(ごう)が深くて、 [01:55.71]なおもながらうことともなったら、 [01:60.25]奉仕(ほうし)の気持に、なることなんです。 [02:05.03]奉仕の気持に、なることなんです。 [02:13.88]愛するものは、死んだのですから、 [02:18.04]たしかにそれは、死んだのですから、 [02:23.39]もはやどうにも、ならぬのですから、 [02:27.30]そのもののために、そのもののために、 [02:33.03]奉仕の気持に、ならなきゃあならない。 [02:36.97]奉仕の気持に、ならなきゃあならない。 [02:43.81]   2 [02:46.25]奉仕の気持になりはなったが、 [02:50.54]さて格別の、ことも出来ない。 [02:54.00]そこで以前(せん)より、本なら熟読。 [02:58.98]そこで以前(せん)より、人には丁寧。 [03:04.19]テンポ正しき散歩をなして [03:07.57]麦稈真田(ばっかんさなだ)を敬虔(けいけん)に編(あ)み―― [03:12.16]まるでこれでは、玩具(おもちゃ)の兵隊、 [03:16.78]まるでこれでは、毎日、日曜。 [03:22.05]神社の日向(ひなた)を、ゆるゆる歩み、 [03:26.08]知人に遇(あ)えば、にっこり致(いた)し、 [03:30.75]飴売爺々(あめうりじじい)と、仲よしになり、 [03:35.17]鳩に豆なぞ、パラパラ撒(ま)いて、 [03:38.10]まぶしくなったら、日蔭(ひかげ)に這入(はい)り、 [03:42.17]そこで地面や草木を見直す。 [03:47.11]苔(こけ)はまことに、ひんやりいたし、 [03:50.68]いわうようなき、今日の麗日(れいじつ)。 [03:54.20]参詣人等(さんけいにんら)もぞろぞろ歩き、 [03:57.20]わたしは、なんにも腹が立たない。 [04:01.58]    《まことに人生、一瞬の夢、 [04:06.25]    ゴム風船の、美しさかな。》 [04:11.75]空に昇って、光って、消えて―― [04:15.67]やあ、今日は、御機嫌(ごきげん)いかが。 [04:20.66]久しぶりだね、その後どうです。 [04:24.12]そこらの何処(どこ)かで、お茶でも飲みましょ。 [04:28.24]勇(いさ)んで茶店に這入(はい)りはすれど、 [04:31.53]ところで話は、とかくないもの。 [04:35.14]煙草(たばこ)なんぞを、くさくさ吹かし、 [04:37.96]名状(めいじょう)しがたい覚悟をなして、―― [04:42.43]戸外(そと)はまことに賑(にぎ)やかなこと! [04:45.50]――ではまたそのうち、奥さんによろしく、 [04:50.73]外国(あっち)に行ったら、たよりを下さい。 [04:53.98]あんまりお酒は、飲まんがいいよ。 [04:58.80]馬車も通れば、電車も通る。 [05:01.95]まことに人生、花嫁御寮(はなよめごりょう)。 [05:07.02]まぶしく、美(は)しく、はた俯(うつむ)いて、 [05:11.41]話をさせたら、でもうんざりか? [05:15.15]それでも心をポーッとさせる、 [05:18.77]まことに、人生、花嫁御寮。 [05:24.71]   3 [05:28.50]ではみなさん、 [05:31.04]喜び過ぎず 悲しみ過ぎず、 [05:36.34]テンポ正しく、握手(あくしゅ)をしましょう。 [05:40.18]つまり、我等(われら)に欠けてるものは、 [05:45.88]実直(じっちょく)なんぞと、心得(こころえ)まして。 [05:50.23]ハイ、ではみなさん、ハイ、御一緒に―― [05:57.89]テンポ正しく、握手をしましょう。