生きのこるものはずうずうしく、 死にゆくものはその清純さを漂(ただよ)わせ 物云いたげな瞳を床にさまよわすだけで、 親を離れ、兄弟を離れ、 最初から独りであったもののように死んでゆく。 ... さて、今日は良いお天気です。 街の片側は翳(かげ)り、片側は日射しをうけて、あったかい けざやかにもわびしい秋の午前です。 空は昨日までの雨に拭(ぬぐ)われて、すがすがしく、 それは海の方まで続いていることが分ります。 ... その空をみながら、また街の中をみながら、 歩いてゆく私はもはや此(こ)の世のことを考えず、 さりとて死んでいったもののことも考えてはいないのです。 みたばかりの死に茫然(ぼうぜん)として、 卑怯(ひきょう)にも似た感情を抱いて私は歩いていたと告白せねばなりません。