| [00:00.95] |
鳥の声で目が覚めた。 |
| [00:04.01] |
はっとして周りを見渡すと、そこは自分の部屋だった。 |
| [00:12.05] |
いつの間に。。帰ってきたんだろう。 |
| [00:17.61] |
ボーとした頭で考えていると、 |
| [00:20.96] |
「大丈夫ですか」 |
| [00:23.27] |
という女性の声が聞こえて驚いた。 |
| [00:27.46] |
声のする方に頭を持ち上げると、 |
| [00:30.51] |
会社の後輩の女の子がエプロン姿で立っていて、二度驚いた。 |
| [00:37.70] |
彼女はぼくのそばに腰を下ろすと、これまでのいきさつを語ってくれた。 |
| [00:45.10] |
ぼくが会社を無断欠勤したこと、何度連絡を入れても電話に出ないこと、 |
| [00:52.91] |
心配になって上司に相談し、自宅まで様子を見に来たこと、 |
| [00:59.23] |
部屋の鍵はあいたままで、中でぼくが倒れていたこと、 |
| [01:05.20] |
びっくりして救急車を呼び、病院に運んだこと、 |
| [01:10.42] |
一昼夜点滴を受け、昨晩家にタクシーで連れ帰ってきたこと。 |
| [01:18.52] |
「そうなのか。。」 |
| [01:22.10] |
するとぼくは二日間も意識がなかったことになる。 |
| [01:28.38] |
一昨日の晩、家を飛び出したことや、 |
| [01:32.62] |
少女に出会ったことも、夢にすぎなかったのか。 |
| [01:39.20] |
そんなことを考えていたら、 |
| [01:42.23] |
彼女のすみませんという声が聞こえた。 |
| [01:47.02] |
「えっ?」ぼくが不思議そうな顔をすると、 |
| [01:52.59] |
彼女は少し恐縮した面持ちで、 |
| [01:56.12] |
病院に行く時に替えの下着を持ち出したことや、 |
| [02:00.70] |
戻ってきてからも、勝手に掃除や洗濯をしていたことについてぼくに謝った。 |
| [02:08.42] |
「そんなこと。。むしろ、ぼくの命の恩人じゃないか。」 |
| [02:15.42] |
そう言ってあげると、彼女も安心した顔になり、よかったと顔を綻ばせた。 |
| [02:23.46] |
そして、ちょっと持っててくださいと言って台所に立つと、 |
| [02:28.90] |
おかいとつきあわせを運んできた。 |
| [02:32.99] |
ぼくが寝ている間に用意したらしい。 |
| [02:37.17] |
「あ、ありがとう。。」 |
| [02:42.52] |
考えてみたら、彼女はこの二日間ぼくにつきっきりだったわけで、 |
| [02:49.75] |
それだけでも十分大変だったろうと思う。 |
| [02:54.41] |
碌に寝てないに違いない。 |
| [02:58.13] |
感謝の気持ちでいっぱいになった。 |
| [03:03.15] |
後片付けを済ませると、彼女は、これから出社しますけど、 |
| [03:09.70] |
お昼の分も用意してありますので、レンチで温めて、 |
| [03:14.14] |
「ちゃんと食べてくださいね」、と言って帰り支度を始めた。 |
| [03:20.54] |
「帰りには、夕飯の支度をしに、また寄っていいですか」、とぼくに聞いた。 |
| [03:29.41] |
「あっ。。うん。。頼んでもいいのかな。」 |
| [03:37.03] |
彼女は、「はい」、と元気な返事をして出ていった。 |
| [03:43.21] |
本当にいい子だと思った。 |
| [03:48.51] |
お昼になって、用意してもらった昼食を食べてから、 |
| [03:53.04] |
ちょっと散歩してこようという気になった。 |
| [03:57.01] |
体の調子ももう大分いい。少し外の空気にあたりたくなった。 |
| [04:05.96] |
しばらく歩いてから、近くの公園のベンチに腰掛け、ボーと空を見上げた。 |
| [04:15.49] |
よく晴れ渡ったいい天気だった。 |
| [04:21.39] |
これまでのことを少し考えてみる。 |
| [04:25.71] |
あの晩、彼女に電話を掛けたことは果たしてよかったのだろうか。 |
| [04:33.61] |
それ以前に、ぼくたちの関係はもう終わっていることはわかっていたはずだ。 |
| [04:42.75] |
でも、病気で苦しんでる中、もしかしたらという淡い期待があっても当然じゃないか。 |
| [04:51.34] |
彼女が来てくれさえすれば、きっとぼくたちは、やり直せたと思う。 |
| [05:00.43] |
いや、そう考えるのは止そう。 |
| [05:05.62] |
それでは彼女を責めることになる。 |
| [05:09.79] |
そこまで彼女を追い込んだのは、きっとぼくなのだから。 |
| [05:17.63] |
やっぱり、ぼくは恋愛には向いてないのかもしれない。 |
| [05:24.25] |
二度経験すれば自ずとわかる。 |
| [05:29.15] |
もう誰かを愛することはやめよう。 |
| [05:32.99] |
傷つき、傷つけあう関係はこれでお仕舞いにしよう。 |
| [05:39.59] |
もう大分疲れてしまった。 |
| [05:43.73] |
それでも、彼女たちには幸せになってほしいと思う。 |
| [05:51.68] |
この先不幸な人生を歩もうなら、その責任の一端は、ぼくにあることになるかもしれない。 |
| [06:01.52] |
それだけは、なってほしくない。 |