誰も知らない、昔の話。 そっと火影は語り出す。 冷たい波音、響く丘で、 その娘は生まれた。 細い指で描く 何時か見た景色を、 人の云う仕合せに 灯して、信じていたかった。 赤い蝋燭、静かに燃える。 この胸で揺れる光。 それは誰かが夢見た、 ただの脆い幻。 時は流れて 運命は揺れる。 ここに 忍び寄る 暗い影。 優しい人たちは 心を失くし 囚われゆく この腕。 泡沫の想いが、 最後の筆を執る。 愛されたその色は、 哀しく、儚く映るだけ。 赤い蝋燭、静かに燃える。 この闇を秘める光。 それは絶えゆく祈り。 声が波に消えた。 この傷みは、やがて全てを飲み込むだろう。 町を、海を、そして追憶を、 ひとつ残らず消し去るように。 赤い蝋燭、静かに燃える。 この夢を終える光。 やがて、全てが消える。 海の音が響いて、 光が天へと昇る、 ただの脆い幻。 誰も知らない、昔の話。 そっと火影は語り出す。 冷たい波音、響く丘で、 終わったひとつの物語を。