何(なに)も感(かん)じず 何(なに)も考(かんが)えず 植物(しょくぶつ)のようにいられたら 喜(よろこ)びもなく 悲(かな)しみもなく 穏(おだや)かな時(とき)を 送(おく)れるだろうか 何(なに)も伝(つた)えず 何(なに)も語(かた)らず 忘(わす)れ去(さ)られてしまえたら 羨(うらや)むことも 僻(ひが)むこともたく ひとり静(しず)かに 過(す)ごせるだろうか 何(なに)も望(のぞ)まない それすらも望(のぞ)まない矛盾(むじゅん)を 消(け)せるのなら 私(わたし)の色(いろ)を 透明(とうめい)な絵(え)の具(ぐ)で 塗(ぬ)り潰(つぶ)して 真空(しんくう)の中(なか)へ溶(と)かして 手(て)にしていた記憶(きおく)を 名前(なまえ)を手(て)離(はな)して 風(かぜ)吹(ふ)くように 散(ち)って行(ゆ)こう 何(なに)も願(ねが)わず 何(なに)も求(もと)めず 欲望(よくぼう)を消(け)してしまえたら 愛(あい)することも 憎(にく)むこともなく 曇(くも)りない心(こころ)を 得(え)られるだろうか 慰(なぐさ)めの歌(うた)を紡(つむ)ぎながら 癒(いや)しにはならないと わかっていた 私(わたし)の声(こえ)を 空白(くうはく)のナイフで 切(き)り裂(さ)いて 深海(しんかい)の底(そこ)へ沈(しず)めて 救(すく)いもなく 迷(まよ)いも 光(ひかり)も 影(かげ)もない 虚空(こくう)の果(は)てへと落(お)ちて行(ゆ)こう すべての音(おと)が 沈黙(ちんもく)のノイズに 搔(か)き消(け)され 静謐(せいひつ)の中(なか)へ消(き)える 身体(からだ)も 意志(いし)も 感覚(かんかく)も 想像(そうぞう)も 認識(にんしき)も 幻(まぼろし)のように 揺(ゆ)らいで そのすべてが 完全(かんぜん)な虚空(こくう)に飲(の)み込(こ)まれ 何(なに)も残(のこ)らずに消(き)えて行(ゆ)くよ