[00:40.390]或る夏、影を伸ばすような夕暮れ [00:43.770]カラスが鳥居の上で聞いた噂 [00:46.440]耳打つ子供の声 夏祭り、揺ラリ [00:50.830]裏山の小道、トンネルの向こうに [00:54.460]ポツリと古び眠る屋敷があって [00:57.170]首吊った少女の霊が夜な夜な出るそうだ [01:00.940]好奇心で立ち入る人達 [01:04.170]「言っただろ、出るはずない」と [01:06.470]軋む階段 揺れる懐中電灯 [01:09.490]誰も気付いてはくれないや [01:12.210]「私、死んでなんかない。」って [01:14.410]暗がりに浸かって [01:15.750]そっと強がって澄ましても [01:18.470]過ごした日々と共に [01:20.390]止まった針は埃被って [01:23.100]また声枯らして今日が終わって [01:25.740]明日が窓に映り込んでも [01:29.240]私は此処にいます [01:55.390]季節を束ねた虫の聲 夕立 [02:00.480]流れた灯篭 神様の悪戯のよう [02:15.800]迷い込んできた灰色猫 [02:18.140]「あなたも私が見えないの?」 [02:20.400]背を撫でようとした右手は虚しく [02:23.880]するり抜け、空を掻いた [02:26.190]「私、死んでいたのかな」って [02:28.380]膝を抱えて 過去の糸を手繰っても [02:32.450]些細な辛いことや家族の顔も思い出せなくて [02:37.400]遠くで灯りだす家並みの明りや [02:40.460]咲いた打ち上げ花火を [02:43.260]眺め、今を誤魔化す [03:14.320]夏の終わり 過ぎ去った [03:18.329]子供たちの噂も薄れ [03:21.740]漂っては薫る線香の煙と一緒に [03:26.570]姿は透け、やがて消えゆく [03:30.630]私はただの一夏の噂だった [03:34.650]六月始めに生まれ [03:38.000]八月終わりに遠退いた [03:40.240]意識は影法師になった [03:42.790]誰も見つけてはくれなかったけれど [03:46.150]記憶の片隅にある、かつての淡い日々の [03:51.000]一部となって残り続ける [03:53.740]もう切らした向日葵の歌 [03:56.400]蝉しぐれも亡き [03:57.680]夏の匂いだけ残る屋敷に [04:00.940]少女はもういないだろう