日曜日は、朝から雲ひとつない晴天だった。 そしてみんなの休みがひとつに集まった一日。 奇跡の一日の始まりだった。 やっぱり、制服を着て外を歩くのはどきどきします 確かにな。いまさらながら制服着て並んで歩くのは、抵抗あるな とてもへんなふたりです おまえはまだいいよ、俺なんか一年前だぜ、卒業したの。アホみたいだ 朋也くん、まだまだ若いです。まだまだ似合います まあな。おまえは、結構な年だもんな …朋也くん、わたしのこと嫌いですか? 大好きだぞ あ、ありがとうございます…あ、今誤魔化されそうでした なにがだよ 一つ年上なだけなのに、結構な年とか言わないで欲しいです でも、俺まだ十代だぞ。おまえは? 二十代ですけど… そういうことだ いいです、どうせおばさんです。 今日はへんな趣味の女の子として、朋也くんにベッタリくっついています おい、渚。うそだよ、うそ。おまえ、若いってば もう遅いです、腕とかも組んでしまいます まぁ、なんだ。知ってるやつに見つからないようにいけば、いっか はい すごいです、学校の桜が満開です ああ、すけぇ綺麗だな ミステリーデートって、学校でお花見することだったんですね、 それで制服を着て。ありがとうございます こんなの、序の口だ まだ何かあるんですか? みんな渚を待ってる、急ごう あ、朋也くん! よぅ、久しぶり 誰だ、おまえ おまえね、久しぶりの再会でそれはないだろ 春原さんですよ 春原だって!なんつー変な髪色してんだ!誰だかわからなかったぜ 黒髪のとこが変なんだよ! 高校ん時みたいに金髪じゃなきゃ、おまえじゃねぇって。 よし、俺が後でマっキンキンに染めてやる ばか、やめろ!会社クビになったらどうすんだ! バカ話はその辺にしておけ 智代さん 久しぶりだな 元気してた? ご無沙汰してます 杏さんに椋さん… 私たちもいるわよ こんにちは 仁科さん、杉坂さん…皆さんどうしたんです?お揃いで制服着て… 相変わらずだな、古河は あの頃とぜんぜん、変わってない あたしたちの先輩なのにね 後輩だろ でもなんか、渚らしくてほっとする 今日は、渚さんの卒業式ですよ 卒業式…? 古河渚とその親友一同の、な えっ そこにいるバカがそんな突拍子もないことを思いついたんだ 朋也くん… 渚にバレないように連絡を取り合うのには、苦労したぜ 何言ってんだ、みんなに段取りつけたの、僕じゃないか おまえこそ何を言ってる、人任せにしておきながら いや…まぁ、そうなんだけどさ でも、楽しかったぞ うん、みんなともこうして会えたし まさかまた制服着ちゃうなんてね 久々にわくわくしたよ、ね うん 皆さん、わざわざわたしのために… 泣くのは、まだ早いですよ あ、お母さん、お父さん 娘の晴れ姿、見に来てやったぜ 卒業式を迎えることが出来て良かったね、渚ちゃん 伊吹先生も どれ、皆さん集まったかな? あ、幸村先生 僕たちだけじゃリアリティないからな。 ジジィも呼んでやったのさ。 ジジィ、死ぬ前にいい思い出話が出来たろ? おまえたちの育成が心配で、死ぬに死ねんわ 俺たち全員、じいさんの最後の教え子だもんな じゃ、始めるかな これより、古河渚の卒業式を行います。校歌斉唱 せーのっ、はい 続きまして、卒業証書の授与。卒業生、古河渚 はい 卒業証書、古河渚殿。身のものは本校において、 高等学校の課程を卒業したことを証する。古河渚の友人一同。 ようがんばった はい それでは、卒業生を代表して、答辞の言葉。古河渚 えっ、あ、わたし? 渚、演劇部の説明会の練習を思い出せ。 今思ってることを話せばいいんだよ はい…わたしは、ただでさえ引っ込み思案で、 友達を作るのが下手で… それでも、二年生の終わりには、やっと友達ができて 三年生になったら、もっと仲良くなれるかなって、そう思ってました でも、病気で学校へはほどんといけませんでした っ、渚… 泣くな、早苗。娘の門出を、しっかりみてやれ はいっ もう一度三年生をやり直すことになって、わたしが登校できたのは、 始業式から二週間が過ぎた日でした 新しいクラスに、わたしの知ってる人は誰もいません わたし、ひとりきりだと思いました 時間の流れで変わらないものはなくて それを知ったら、もう動けませんでした だから、この坂の下で立ちつくしてました そんなわたしの背を押してくれたのが、朋也くんでした 王子様の登場ってわけだな バカ、茶化してんじゃねぇよ 変わっていくなら、新しい何かを見つけるまでだって 朋也くんはそう励ましてくれました それからの一ヶ月、わたしは春原さん、仁科さん、杉坂さん、幸村先生… 色んな人に支えられて、演劇部を作りました 絶対にひとりではできなかったことです そうして、創立者祭の発表会に向けてがんばりました 舞台の上では、泣いてしまいましたけど… 劇を最後までやり遂げることができました 初めて、ひとつの目標に向けてがんばって、そして達成できたんです こんなわたしでも、たくさんの人と力を合わせれば、 すごいことができるんだって知りました でも、それからはまた、体の調子を崩して… 皆さんと…皆さんと、一緒に卒業することがっ 渚 がんばって 皆さんが卒業して、幸村先生も退職されて… 本当にまた、ひとりきりになってしまいました それでも、もう一年、また三年生をやり直そう がんばってみようという気になりました わたしは、強くなりたかったんです 体は弱いですけど…それでも、強く生きたかったんです そのわたしに、勇気をくださったのは、ここに居る皆さんです 五年もかかりましたが、やっと卒業できました 皆さん、どうもありがとうございました 卒業、おめでとう 渚、おめでとう おめでとう、渚 マジがんばったぜ おめでとう おめでとう おめでとうさん 卒業、おめでとう おめでとう ご卒業、おめでとうございます 渚ちゃん、おめでとう ありがとうございました… 渚の長い、長い学校生活が…今、終わった。