「お兄ちゃん、ぽっち脱却のためにももっとちゃんとした趣味を持ったほうがいいよ」 「いいよ、脱却する気ないし、っつーか、したくないし。だいたい一人いるのが悪いという考え方がもうおかしいだろ」 「まーた始まった……」 「言ってることは決して間違いではないのだけれど、言っている人間がまちがっているのよね……」 「あ、でもお姉さんの立場から言わせてもらうと、趣味はあったほうがいいと思うよ?」 「ほう、さすが陽乃、表向きはもともなこと言うな」 「静ちゃん、その言い方ひどいー」 「事実でしょ」 「雪乃ちゃんまでひどい!お姉ちゃんは本当に比企谷君のことを心配しているのにっ!」 「姉さんが?冗談もほどほどにしておきなさい」 「本気だよ。だって、比企谷君はこれから先も一人寂しく生きていくんでしょう? だったら打ち込む趣味くらいあったほうがいいと思うよ」 「ちょっと、この人黒すぎるでしょう?雪ノ下の三倍くらい切れ味鋭いんだけど、どうにかなんないのこれ?」 「でも、趣味が合う人と一緒に遊べたら楽しいよね」 「よし、者ども、俺の趣味を早急に考えるんだ、早くしろ間に合わなくなって知らんぞ」 「なんで急に偉そうだし……」 「無難なところで読書じゃないかしら」 「えー、なんか暗い」 「……暗い、かしら。……私は、楽しいのだけれど」 「わー!ご、ごめん!ゆきのんの場合は似合ってるから全然オッケーだよ!」 「おお……、雪乃ちゃんがへこんだ。ガハマちゃんすごいなー」 「ていうか、俺の場合は暗くてダメなのかよ……」 「でも、身体動かす系のほうが健全なイメージなるのは確かですね」 「ふむ。ならば、サバゲーなどはどうだ?」 「サバ、サバ、サバ、ゲー?……サバ?」 「サバイバルゲームのことだよ、雪ノ下。簡単に言うとエアガンで戦争ごっこを本気でやるということだな」 「なるほど……、それなら比企谷くんにぴったりじゃないかしら。死角からの狙撃とか適性が高いと思うわ」 「だから、笑顔で俺の存在感を揶揄すんのやめろ」 「雪乃ちゃん、そういうこと言っちゃダメだよ」 「比企谷くんはまず人数が揃えられないんだからそもそもゲームできないんだし。変に希望持たせちゃ酷だよ」 「ブラックにブラック重ねるとかこの姉妹、ガムなの?眠気覚めちゃうだろ」 「ふむ。なら、釣りはいいんじゃないか。一人でもできるし、私もよくやってる。 そ、その気があれば、教えんでもないぞ」 「ほむぅ。我もよくやってる。……そんな餌では釣られクマー!」 「そっちかよ…。はい、次、次」 「ていうか、道具揃える系のは高校生にはきついよね。お金かかっちゃうし」 「では、今の生活の延長線上で考えられるものにするべきね」 「八幡ってお家では何してるの?」 「え、いや……別に何も、特にこれと言ったことは……」 「小町ちゃん?お姉さんたちに教えて?」 「あ、あたしも知りたい!くないこともない、かな、うん」 「ほう、興味深いな」 「えーっとですね……」 「よせ、やめろ小町」 「兄は帰ってくると、チバテレビで昔のアニメ観ながらだらだらして、その後、部屋で勉強してもすね。 あとはだいたい本読んでたり、ゲームしてたりします」 「うわー、つまんなー」 「ほっとけ……俺は楽しいんだよ。ワタルとかやってると最高だぞ」 「ふむ。だが平日は我も似たようなものよ」 「まぁ、学校も部活もあるから仕方ないよね。じゃあ、休日は?」 「えっと休日は、スーパーヒーロータイムのあと、プリキュア観て、……で、プリキュア観て泣いてあすね……」 「わぁ、その年で」 異議あり。ていうかみんな見てないとかどういうことなの?今時、幼稚園児でも観てるよ?遅れてるんじゃないの? スマイルになったり、ドキドキしたりしないの? 「あとは、図書館行ったり本屋さん行ったりしてますけど、基本的にはいつも変わらないですよ?」 「比企谷くんが楽しいのなら、それで構わないけれど……」 「るせー。お前に言われたくねぇんだよ。だいたい、お前だってそう変わらないだろ、友達いないし、読書好きだし」 「一緒にされては困るわね。私は……」 「ふふふ、雪乃ちゃんが実家にいた頃はね~」 「姉さん、やめて。絶対にやめて」 「いいじゃない、別に減るようなもんじゃないし。 雪乃ちゃんはお休みの日、紅茶を淹れてリビングで読書したり映画を観てたかな。 ときどき、ピアノ弾いたりもしてたね」 「おお、さすがゆきのん」 「別に恥ずかしがるようなことじゃないと思うな。クールでかっこいいし」 「ああ、いいとこのお嬢さんって感じだし、合ってるんじゃないか」 「そ、そうかしら……。わ、私にとっては普通のことだからあまり実感がないのだけれど」 「そういうのって素敵です!」 「でしょー?でもね、自分の部屋での雪乃ちゃんはもっと素敵だよ」 「ちょっと待ちなさい。なぜ知っているの、姉さんやめて。やめてください」 「雪乃ちゃんは自分の部屋だと、パンダのパンさんクッション抱えながら、 ネットで猫動画漁って、超真剣な顔で見てるんだよ」 「……はあ」 「あ、えっと、その、それは何と言うか……」 「ええ……。……仮に。仮にそうだったとして……、それが一体なんだというのかしら?」 「すげえ……開き直った……。お前のメンタル、どんだけ強えだよ……」 「あー。けど、猫と言えば兄もよく家で猫と遊んでますね。 なので、雪乃さんと同じく、猫が趣味みたいなとこはあるかもです」 「なにその趣味。トップブリーダー推奨みてぇじゃねぇか」 「猫……」 「ヒ、ヒッキー!犬っ!犬もいいよ!」 「猫……」 「犬っ!」 「比企谷くん、猫よね?」 「ヒッキー、犬だよね!?」 「いや、その、こっちに話を振られても……。あと雪ノ下、お前は猫と勝負ごとのときだけ本気出し過ぎだからな」 「犬っ!」 「……猫」 「修羅場キタ――――ッ!」 「雪乃ちゃん、負けるなー!」 「というわけで、やってまいりました。 『俺のクラスメイトと知り合いが修羅場すぎる。』実況は比企谷小町でお送りいたします。 猫派犬派が入り乱れてのドッグファイト、い、いやキャットファイトかな? まあ、なんでもいいや、いぬねこファイト、レディー・ゴー!」 「はっ!ヒッキーの好きなチーバくんだって犬だよ!ほら、ヒッキー、犬派!」 「む……、なるほど」 「おおっと、ここで結衣さんの先制攻撃がクリティカルヒットおおぉっ!解説の平塚先生、今の一撃はどう見ますか?」 「ふむ。比企谷の千葉愛を巧みについた作戦だな」 「なかなかやるわね、由比ケ浜さん。けれど、犬は散歩するために外に出る必要があるわ。 ほら、引きこもりの比企谷くんは猫派よね?」 「くつ、確かにあんま家から出ないから反論できねぇ……」 「雪乃さんも負けてない!鮮やかなカウンターが決まるうっ!いかがですか、雪乃さんサイドの陽乃さん」 「誘導しつつ、ダメージを与えるのは、雪乃ちゃんらしいね。さすが私の妹」 「さぁ、双方譲らず、勝負の行方はわからなくなってまいりましたっ!」 「小町、お前は誰の味方なんだよ……」 「愚問ですなぁ、お兄ちゃん。小町はお兄ちゃんの味方です」 「八幡、八幡」 「ん?どうした、戸塚」 「うさぎ」 「へ?」 「おおっと!ここで第三勢力、うさぎ派の乱入だあっ!」 「八幡、うさぎだよ、うさぎ。うさぎも可愛いよ?」 「そ、そうだぞ、八幡!新しい世界にいざなうのはいつだってうさぎの役目!」 「……ああ、確かに。今あまりの可愛さに新しい世界が開けちゃうところだったぜ……」 「そうであろう!ウェルカム・トゥ・アンダーグラウンド……」 「やめろ材木座、耳元で囁くな」 「でもね、八幡。うさぎ飼ってみると楽しいよ。ふわふわだし、静かだし、餌食べるとき、口元もぐもぐするよ!」 「八幡、うさぎはいいぞ!月に代わってお仕置きしてくれるぞ!サービスサービスぅ~!」 「材木座が言うと、うさぎへの好感度が下がるから不思議だ……」 「どうやらタッグによるバトルロイヤルの様相を呈してきたぞお!?」 「タッグ戦ということなら、……私は猫かなあ。そろそろ飼おうかと思ってたし」 「静ちゃん、それフラグだよ?一生独身フラグだよ?」 「早く!早く誰か貰ってあげて!」 「んー。静ちゃんは猫派かー。わたしは強いて選ぶなら、犬かなー。忠実で逆らわないし」 「理由が怖いんですけど、この人……」 「犬っ!」 「猫……」 「うさぎ」 「三つ巴の激戦!果たして栄冠は誰に輝くのか!?」 「比企谷くん」 「ヒッキー」 「八幡……」 「くっ、クール、パッション、キュートの究極三択か」 「さぁ、お兄ちゃんの答えは!?」 「……ゆ……く、と、戸塚で……」 「なんで人で選んだし!?」 「動物の名前で答えなさい」 「う、うう……、うさぎ、で」 「よかったぁ、八幡、今度うさぎ見にいこうね!」 「試合しゅーりょー。優勝は戸塚さんということで。えっと、お兄ちゃんの趣味は戸塚さんってことに、なるの?」 「うむ、趣味がいい!」 × × × 「まともな趣味ねぇ。考えてみるとちょっと難しいか。うーん、私の周りで多いのは車とかバイクとかだけど……」 「っていっても免許がないんで」 「だよね、他はカメラとか音楽とか」 「音楽!なんかかっこいいじゃん!」 「音楽鑑賞自体も趣味の一つではあるけれど、由比ケ浜さんが言っているのは楽器の演奏のほうよね。 身近な楽器で代表的なのはピアノやギターといったところかしら」 「お兄ちゃんもなんか楽器やればいいよ!音楽最高だよ!」 「いや、やらないでしょ……。っつーか、お前できんのかよ」 「小町はできるよ!歌って踊れるし、なんなら歌って戦えるよ!」 「えー、なにそれ斬新……」 「ギターとかやるとかっこいいよ!」 「いいや、高校二年になっちまった今からギター始めると逆にカッコ悪い」 「そうかなぁ……」 「いや、それがよく考えてみるとかっこ悪いんだな。 ほら、なんか、モテたくてやってるみたいな空気になっちゃうだろ」 「ならないと思うけど……」 「なる!俺調べによると中高生男子がギターを始める理由のおよそ八割がモテたいからだ」 「そ、そういえばうちにもなぜかギターが……」 「そうだ、親父から俺に受け継がれし、苦い青春の象徴、それが比企谷家のギターだ」 「でも、弾いてる姿を見たことがないような……」 「そりゃそうだ、モテたくてギター始める奴なんて、 人に見せるときはそれなりに弾ける状態になってからにしようとか思うからな」 「上達しない典型ね……」 「そのとおり。そういう奴はだいたいFコードが押さえられなくて挫折する。ソースは俺」 「か、かっこ悪い……」 「だいたいFとか押さえられるわけねーだろ、なんかフレミングの左手の法則みたいになってんだぞ。 私立文系なめんな」 「この調子だといつまでたってもヒッキーの趣味見つからなそう……」 「さすが比企谷くんね。物事を否定から入らせたら勝てる人間がいなさそうだわ」 「え、お、俺が悪いの……?趣味が見つけられないのって俺の性格が原因?」 「比企谷。そう深刻に考えるようなものでもないさ。趣味なんて無理に見つけるものじゃない。 誰かと話を合わせるためだったり、流行に乗るために始めるなんて、君の一番嫌うところだろう」 「まぁ、そうなんですけど……」 「やりたいことを探すのなら君の周りを見渡してみればいい。 今の君の周りには刺激的なものがたくさんあるはずだよ」 「……先生」 「そうそう。世の中、刺激的なものばかりだよ。例えば、……静ちゃんのベーシスト姿とか。また見たいなぁチラッ」 「陽乃、茶化すな。私は今すごくいいことを言って……」 「でも、あのライブ本当にすごかったよね。かっこよかった」 「あー、小町帰っちゃったので、見てないんですよね」 「なんだ、お前見てなかったのか。まぁ、俺も最後しか見てないんだけどよ」 「八幡!我も!我も見てなかったぞ!」 「はいはい。なんで可愛さアピールしてくるんだよ……」 「小町も聞きたい……。結衣さんと雪乃さんの歌が聞きたーい!」 「そうだそうだ!雪乃ちゃんのちょっといいとこ見てみたいー!」 「絶対に嫌」 「あたしは楽しかったけど、やっぱ恥ずかしいしね」 「それに、もう見せる機会もないだろうしな」 「ああ、そのことなら大丈夫」 「へ?」