向こふを行くのは お春はないか 薄情な眼つきで 知らぬ顔 沈丁花を匂はせて おや、まあ ひとあめくるね はるさめもやふの お春はないか 紺のぼかしの蛇の目傘に 花梔子の雨がけぶる おや、まあ これからあひびきかゐ 婀娜な黒髪 お春じゃないか 淡くれなゐに 頬紅そめりゃあ 巴旦杏もいろなしさ おや、まあ 春らんまんだね 暖房装置の冬が往くと 冷房装置の夏がきた ほんに春は来やしなゐ おや、まあ また待ちぼうけかゐ 向こふを行くのは お春はないか 薄情な眼つきで 知らぬ顔 おわり