[00:20.05]蛍が好きだから、 [00:24.23]お店の名前を《ほたるの酒場》と付けたのと、 [00:29.30]あの娘は云ってました。 [00:33.53]宵闇が訪れると、雨の日も風の日も、 [00:39.90]間口五尺の小店の軒さきに明りが灯る憂き世小路。 [00:48.22]あの娘の店もそんな路地のなかばにあり…。 [00:55.26]店閉いをしたのは年の瀬だったか、 [00:59.47]冬ざれのつめたい雨が降りつづいてましたっけ。 [01:06.44]あそこもご多聞に洩れず地上げにあって、 [01:11.08]櫛の歯が欠けるような有ようは、 [01:14.32]ご時世と申すもんでしょうか。 [01:18.88]人の情が肩寄せ合うような、 [01:22.15]マッチ箱の賑わいが、いまは懐かしい。 [01:28.19]あの娘の名前は、しあわせの幸子。 [01:34.52]故郷の北国へ帰っていったと云う。 [01:40.14] [01:51.70]新宿 涙のすてどころ [02:05.46]ひきずるコートに 演歌がからむ [02:18.89]無口同士が とまり木で [02:25.89]隣り合ったも 縁だから [02:32.88]捨てておゆきよ捨てておゆきよ [02:45.91]こころ傷 [02:53.95] [02:56.17]しあわせも薄いのに幸子だなんて…。 [03:03.00]故郷へ帰ってまもなく、 [03:06.08]あの娘は天の蛍になったそうです。 [03:11.60]運命とは命を運ぶことですが、 [03:15.87]宿命とは前世から定められた命の宿り。 [03:23.14]あの娘の人生は短い命の宿りだったのです。 [03:29.88]この憂き世小路の片隅に、 [03:32.82]蛍の墓をつくってやりましょうか。 [03:37.66]供養のとむらい花は、 [03:39.97]散ることも枯れることもないネオンの花。 [03:45.73]歌はさしずめ演歌でしょう。 [03:50.74]都会のにごり水に蛍は住めないが、 [03:54.95]闇にほのかな明りを求めて、 [03:58.21]人は酒という水辺を今夜も漂うようです。 [04:04.58]蛍が一つ…幸子の蛍でしょうか。 [04:10.12]ネオンの空に、天の蛍が流れていった。 [04:16.90] [04:22.70]なになにくずれか 知らないが [04:36.50]からんでくれるな 不運はおなじ [04:49.91]どうせこの世は うたかたと [04:56.95]のんで騒いで 夜が更けりゃ [05:03.61]雨も泣くよな 雨も泣くよな [05:16.78]露地しぐれ [05:25.84]