薄明 音楽がよくきこえる だれも闻いてゐないのに ちひさきフーガが 花のあひだを 草の叶をあひだを 染めてながれる 窓をひらいて 窓にもたれればいい 土の上に影があるのを 眺めればいい ああ 何もかも美しい! 私の身体の 外に 私を囲んで暖く香(かをり)よくにほふひと 私は ささやく おまへにまた一度 ――はかなさよ ああ このひとときとともにとどまれ うつろふものよ 美しさとともに灭びゆけ! やまない音楽のなかなのに 小鸟も果実(このみ)も高い空で眠りに就き 影は长く 消えてしまふ ――そして 别れる