[00:32.59]どこかくすんだ九月の日 [00:34.91]枯れだす大気は季節を掻き毟った [00:38.55]母胎の森はいつもより騒ぎ立てていた [00:51.73]教室の水槽が消え [00:54.07]幾千の魚が海岸に打ち上がった [00:57.66]不吉にも僕は自転車でカラスを轢いた [01:02.45]山小屋の羊たちの鳴き声は何処へ行ったろうか [01:07.27]ずっと長い未来から逃げ出すみたいに [01:12.00]「ウージの眼」と呼ばれる巨大な送電塔は [01:15.58]赤く赤く染め上がって見下ろしていた [01:25.25]閑静な廃景に鉄塔、田園に浸かって [01:29.70]簡単なカメラで僕を写した [01:32.99]唐突に視界に入った黒い制服の彼女は口を開いた [01:38.12]「あなたは私の産まれ変わりなの」 [01:42.86]そう言ってすぐに背を向けて去った [01:46.15]焼き付いて離れない表情から [01:48.59]もう逃げられない [01:58.89]夕暮れがアスファルトを焼く [02:00.99]単調に焚きだす祭囃子を抜け [02:04.77]綺麗な字が書かれた紙切れをまた見た [02:08.95]線路に導かれて [02:13.15]聞かない駅、二番ホーム [02:18.30]そこには予告通り彼女はいた [02:22.64]手には枯れた花束を持っていた [02:27.03]静寂な夜を歩いた 会話もなかった [02:31.41]塞がれた石のトンネルがあった [02:34.72]板張りの隙間から [02:37.62]奥の方に鳥居が僅かに見えた [02:41.32]「あなたの産まれる前の日のこと、 [02:44.55]16年前の今日を教えてあげる」 [02:47.95]花を供えた目は泣いていた [02:50.58]これはまだ始まりだった [03:03.29]守られない命も [03:08.02]隠したことも [03:13.22]ほんの些細な言葉も [03:18.14]誰かが背負っていた