[00:21.800]華やかな大通りの [00:24.770]棄てられた蝙蝠傘の下 [00:29.010] [00:33.910]草臥れた尻尾上げて [00:36.890]毛繕う黒猫在りました [00:40.970] [00:51.290]「ちょいと道往く其処の御嬢さん [00:54.120]御出で此処らで一つ話ましょう」 [00:57.280]猫は云う [00:58.470]「今日の噺は、 [00:59.960]そうだ昔に路端で聞いた [01:03.490]愉快な悲恋など」 [01:05.740] [01:06.340]「昔交わらざる身の上の淡い [01:09.470]恋に溺れた烏と兎が居ました」 [01:13.500]「叶わない夢なのでしょう? [01:16.240]オキノドクサマ」/ [01:17.780]「いいえ、冷たい旅路の果てに [01:21.070]二匹身体を捨てて結ばれたのです」 [01:24.610]「なんだか可笑しな噺ね」 [01:28.070] [01:40.700] [01:42.700]薄芽吹く街路樹を [01:45.660]眺め見るハイカラ服の横 [01:49.950] [01:54.690]草臥れた尻尾振って [01:57.680]手を招く黒猫在りました [02:01.960] [02:12.320]「此れは何時かの可愛い御嬢さん、 [02:15.160]今日はも一つ噺聴かせましょう」 [02:18.290]猫は云う [02:19.380]「そうだな今日は、ええと [02:21.600]嫉妬の炎に舞った [02:24.490]醜い蝶の噺」 [02:26.590] [02:27.090]「そして番を離れた揚羽は曾て [02:30.490]愛した雄を喰い荒らしました」 [02:33.600]「どうやら有り触れた寓話のようね、 [02:37.050]オアイニクサマ」/ [02:38.700]「いいえ、痛快なる喜劇には [02:42.100]惨たらしい落ちが付き物なのです」 [02:45.620]「なんだか報われない噺ね」 [02:49.240] [02:54.530] [03:02.960]「やあや、またまた逢った。御嬢さん、 [03:06.070]今日は最後に一つ聴かせましょう」 [03:09.240]猫は問う、嗄れた声で [03:11.900]「御存知だろうか百回生きた [03:15.920]お喋り猫の噺」 [03:17.600] [03:18.100]「時に歓天喜地の夜も [03:21.170]又は老少不定、異域之鬼の代も」 [03:25.440]「成程話題には欠かないようね、 [03:28.190]ゴシュウショウサマ」/ [03:30.140]振り返る先に猫は無く [03:33.380]街の風に揺れる雨傘カラカラ [03:36.880]「なんだか不可思議な噺ね、嗚呼」 [03:42.030]娘は哂う「今宵は雨かしら」 [03:46.960] [03:58.710]-END-